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今なら聞けるかもしれないと思い、もう一度振り返ると気になっていた疑問を投げ掛けた。
枕がガサガサと音を立てる。
「……ねぇ、蒼真くんって……わたしのこと知ったの、関根さんが入院して仕事するようになってからだよね……?」
すると真面目な顔が、答えてくれる。
「茉莉さんと初めて会ったのは、エレベーターの前でしょ」
思い掛けない返事に目を白黒させていると、わたしの髪を摘んで弄り始めた。
「えっ……え!?」
「覚えてないの? 酷いなぁ」
むくれたような顔がまた愛らしく胸が鳴ったが、一方で頭は混乱気味だ。
「覚えてるよっ! わたしは覚えてるけど……」
「なんてね。俺も最初わかんなかった」
「……どういうこと?」
合点がいかずに小首を傾げると、髪を指先に巻き付けた人が、じっとりと遠い目をする。
「俺ずっと探してたんだよねー、あの雨の日の美女を」
「美女って……」
わたしの突っ込みに触れることなく、ぶつくさと続けられる。
「全っ然見つかんねぇなぁと思ってたら、あの請求書受け取った時? 『すみません』って言う声が似てるなぁって思い出してさ。髪はひっつめてるわ、眼鏡してるわで、あれはわかんなかったわー」
「……あ、それで……」
あの時じっと見られたように感じたのは気のせいではなかったんだと、納得した。
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