マフィアは嗤って愛を嘯く。

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 そう言ってあっさりと踵を返して走り去ってしまった彼女の後姿を、フレデリックは小首を傾げて眺め、再び手の中にある携帯に視線を落として嬉しそうに微笑んだ。既にフレデリックの脳内では走り去っていった女の事など綺麗さっぱり消え失せ、辰巳からのメール一色に染まっていた。  ―――辰巳からデートに誘われるなんて、今日はなんて素敵な日だろう。  それは時間と場所だけを告げる素っ気ない文章ではあったが、そこが辰巳らしいと思うフレデリックはかなりの重傷である。だが、今日ばかりはどうしても運命を感じずにはいられないフレデリックだ。  何故かと言われれば、今日は辰巳とフレデリックが初めて出会った日。そう、ちょうど十三年前の今日、フレデリックは辰巳と出会った。もちろん辰巳がそんな事まで覚えていてくれているとは思わない。だが、偶々だったとしても、その偶然がフレデリックにはとても嬉しかったのだ。  一日の仕事を終え、今日の家庭教師は急遽キャンセルだと一哉とガブリエルにメールを送った後で、フレデリックは辰巳との待ち合わせの場所へと向かう。その足取りは、もちろんルンルンだ。まだ時間に余裕がある事を確認し、途中目についたブランドショップで服を買い替える念の入れようである。  そうして辿り着いた待ち合わせ先には、既に辰巳の姿があった。     
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