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「警察呼んだ方が良くねぇかこれ」
「きっともう誰かが通報してるとは思うけど…」
「あー…だよな。取り敢えずここから離れるか…」
いくら正義心の強い辰巳と言えど、さすがにこれだけの怪我人をどうにかしようとは思わないらしい。
些か精彩を欠いた口調で言う辰巳を、フレデリックは珍しいものを見るような顔で見つめ、頷いた。辰巳は、いつでも目の前で起こる出来事に首を突っ込みたがるのだ。
フレデリックの言う通り、間もなく様々なサイレンの音が入り混じり二人の耳に届く。辰巳にとっては聞き慣れない、だが緊急時であるだろう事を伝える騒々しい音々は、次第に音量を増す。
と、その時だった。それまで右へ左へと蛇行を繰り返していたバスが、急にその動きを止めたのである。さっさと踵を返すフレデリックの袖を、辰巳が引いた。
「おい」
「辰巳、先に言っておくけれど、イギリスは日本よりも銃の所持に関しては罰則が厳しい。キミがどうにかしたいのは分かるけれど、僕たちに出来る事はないよ」
辰巳の謂わんとしている事を先回りしてフレデリックが釘を刺す。
その間にも、バスからは数人の男たちが路上に降り立っていた。その手には、猟銃のような物を持っている。
「辰巳、離れよう」
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