マフィアは嗤って愛を嘯く。

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マフィアは嗤って愛を嘯く。

 イギリスはロンドン。  数日前にサウサンプトンへと帰港した大型客船『Queen of the Seas (クイーン・オブ・ザ・シーズ)』を降りた辰巳一意(たつみかずおき)とフレデリックの二人は、フライトまでの数日をゆっくりと過ごしていた。…かと言えば、もちろんそんな事はない。  どういう訳か、今、二人の目の前では大型のバスが暴走し、次々と街往く人々を薙ぎ倒し…もとい轢き殺しているという有様である。それは、美しい街並みに似合わぬ異様な光景である事に間違いはなかった。  ”テロ”と、そんな言葉が辰巳の脳裏を過ぎる。俄かには信じがたい光景に、唖然とした表情で暴走するバスを見つめたまま口を開いたのは辰巳だった。 「おいフレッド…」 「うん…」 「こりゃ映画の撮影かなんかかよ?」 「うーん…。たぶん、違うと思うなぁ…」  まったく危機感もない声音で返し、フレデリックがぽりぽりと額を人差し指で掻く。  未だ暴走を続ける大型バスを、辰巳とフレデリックの視線は追っていた。幸い、こちらへと向かってくる気配も、予感もない事だけが救いだろうか。とは言え、随分と物騒な現場に居合わせてしまったものだと思う二人である。     
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