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入社式の当日から気になるやつがいた。
視線を感じる。そちらへ目線を流すと、ひとりの男と目があった。他の同期の連中より頭ひとつ分背が高い。社長がスピーチしてるのに、そっちのけでやけにこっちを見てくる。
同じ営業部に配属されたそいつの名は宮村宗。
用意されたデスクは隣。なんだか気が重い。そしてやっぱり感じる視線。
一見冷たく見える整った顔。切れ長の涼しげな目から放たれる強い眼差し。
隣に座っているのに穴が開くほどの勢いで視線を突きさしてくる。
宮村はジーッと俺を見て視線を外さない。
何か気の食わない事でもあるんだろうか。それとも自分では気付いていないところから、毛が生えてるとか? あるよな。たまになんでこんなところに濃い毛が一本だけ? っていうやつ。
指先で輪郭辺りを探ってみるけど、手探りで見つかるわけもなく。
俺はさり気なく目を合わせちょっと愛想を振りまいてみた。宮村は真顔のまま、俺の目を見据え、ゆっくり口を開く。
「あのさ、小柴って」
宮村の声は低めで、ゆったりした口調だった。
「ん?」
「出身ってどこ?」
「え、東京だけど……」
「……ふーん……」
なんだろう……意味深な間。
「……小柴って、これ、名前なんて読むの?」
「タケトだけど」
確かに学生の頃から『健人』をケントと呼び間違いされる。わざわざ確認される方が珍しいかも。
「ふーん。タケト……」
「うん。よろしく」
半笑いして言ったけど、宮村はどうにも腑に落ちないって表情。小さく首を傾げ、また俺をジッと見る。
「どうかした?」
「いや」
宮村は俺から視線を外し、やっとパソコン画面へ顔を向けた。
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