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彼の意思がどうあれ関係なかった。ヘリオスは俺の前で鎖に繋がれ、連れていかれた。処刑の日を待つ為に。
毎日十数人づつ牢屋から連れ出される。そして、牢へは二度と帰ってくることは無かった。
ヘリオスが牢へ入れられてから、十日目のことだった。太陽が昇れば処刑が始まる。これが最後のチャンスだ。俺は真夜中、月明りを頼りに、足音を殺し牢へ忍び込んだ。
ヘリオスを失いたくない。その一心だった。
牢兵をしていた知り合いダビドに頼み込み、ヘリオスが閉じ込められている牢の扉を静かに開けた。
かび臭く狭い部屋の中で両手首を鎖で繋がれ、顔を上げる気力もないのか、ヘリオスは頭を垂れたままの姿勢で膝を突いていた。
輝くように美しかった金髪が汗で張り付き、土と埃でドロドロに汚れている。
「ヘリオス」
声を潜め呼びかけた。ヘリオスはゆっくりと顔を上げ、俺の顔をジッと見た。
「……なぜ、来た」
彼は緑色に光る瞳で、俺を睨みつけた。
「逃げよう。一緒に。今、外してやる」
繋がれている手首に触れ鎖を解こうとすると、ヘリオスが激しく頭を横に振った。
「触るな!」
「なんでだよ」
「お前が謀反を起こしたと知れば、お前の父はどうなる? 母はどうなる? 一族はどうなる? 俺と同じように処刑されるのだぞ? お前はそれでいいのか?」
ヘリオスは静かに、でも激しい口調で言った。何も言えなかった。現に俺は知り合いの牢兵ダビドに「最後の別れをさせてほしい。生きているうちに」と懇願しここへ来たのだ。
「もう、十分だ。最後に会えて……それだけで」
「そんな……」
何にも言えない。感情だけが膨れ上がる。息もできないほどだ。
視界を揺らす俺にヘリオスは優しい眼差しを向けた。
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