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「なぁ、アステル」
「い、嫌だ」
駄々をこねる俺に静かに語りかける。
「ひとつ、お願いがある」
「なに?」
「今日、日が昇れば、俺は処刑される。……お前の手で終わらせてくれないか?」
「ふざけるなあっ!」
ヘリオスはこんな時なのに優しく笑った。その顔は太陽のように明るく眩しい。
「誰よりもお前を信頼している。戦争が始まれば、俺は喜んでお前の盾になったろう。お前の手にかかるのなら、本望だ」
「で、できない……できるわけないっ!」
その時、無情にも誰かが近づいてくる足音が聞こえてきた。
「アステル、もうすぐ交代の時間になる。もう戻ってくれ」
ダビドの声に、俺はヘリオスの手をグッと握りしめた。
「い、嫌だ。ヘリオスを一人にしない」
「アステル!」
ダビドが焦りに満ちた声を上げた。
「頼んだぞ」
ヘリオスが顔を寄せ小さな声で囁いた。
その目は涙に濡れていたけど、安らかな笑みを浮かべている。後ろからダビドが俺の腕をつかんだ。ヘリオスから引き剥がされ引きずられながら俺はただ泣きじゃくるばかりだった。
牢から追い出され、そのまま牢の外で俺はうずくまったまま一夜を過ごした。朝日が地平線から顔を出し、世界を照らす。
「……ヘリオス」
そうだ、彼の最後の願い。俺はそれを叶えなくちゃいけない。
すっかり固まってしまった足腰をなんとか立たせ家に向かうと、父を通しペルディッカスへ直訴した。「処刑人をしたい」と。父が「息子が共に学んだ友達だから。反乱分子でない証明を立てたい」と願い出てくれたお陰で、許可が下りた。
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