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「お前、最近よく見かけるな。」
いきなり話しかけられて肩が跳ね上がった。手に持った本を取り落としそうになる。
情けない声を上げながら手をバタつかせて、本が重力に引かれていくのを阻止した。
一瞬の沈黙。のち、かすかな笑い声が聞こえ、顔が熱くなる。
キッとにらみを効かせて振り返ると、深緑色のエプロンをした無精ひげのおっさんがハタキ片手に突っ立っていた。
「うぉ…」
こええ顔してんな、ごめんごめん、と強面を崩す。
エプロンに手書きで書かれたネームプレートが付いている。
間野、と見えた。どうやらここの店員らしかった。
「…何か用ですか。」
ハードカバーの本を腕の中に匿うようにして、おっさんに向き合う。相変わらず怖い顔をしたまま、である。僕があまりにも警戒を解かずに威嚇したままでいるのを見て、おっさんは困ったような顔をする。
「いやぁ…用も何も。ここ俺の店なんだけどね、最近君よく来ているし、いろいろ買っていってくれているから。ちょっと気になったというか。」
この時間に制服姿だし。ぽそっと付け加えるようにして呟く。
結局、一番気になっているのはそこなんだろうと思う。
平日の午前中から、割と有名な私立中学校の制服を着た少年が古本屋に入り浸っているなんて。
真面目、真面目でやってきた今までから考えると、自分でも信じられないくらいだから、そのへんにいる大人が見るともっと奇妙に見えるのだろう。学校から親にも連絡はいっている。
好きにしろ、と言われた。もともと教育熱心な親ではない。私立中学に通いたいと言い始めたのも僕からだった。その当時も、好きなようにしろ、と言われたのを覚えている。
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