レジ裏

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「気になりますか。」 おっさんをじっと見たまま、表情を変えずに聞く。顔の熱もだいぶ引いた。 おそらく自分より一回りは年上であろうおっさんはたじろいだようだった。 「あぁ、いや、すまん…気になるというか…。」 中学二年生相手にしどろもどろ、視線は所在なく宙を彷徨い、手ではハタキをいじくりまわしている。 「いいですよ。」 「…は」 一つ間をおいて、おっさんは間の抜けた声を出す。 不思議なものでも見るように、口を半開きにしたまま僕を見ている。ハタキをいじる手もピタリと止まっていた。 どうせ暇だし。気に入っている古本屋の店員にくらいなら、事情を話したっていいじゃないか。客も少ないし、相手だって暇に決まっている。 「僕が何でここにいるのか気になるんでしょ。だから、理由を話しますよってことです。」 ちょっとやけくそというか、そんな感じだ。 どんな事情を想像したのかは知らないが(おそらくいじめの類だろう)、おっさんは大慌てで僕の申し出を了承し、レジ裏に招き入れた。僕は空の鞄をぷらぷら揺らして中に足を踏み入れる。 大きな棚で遮られているせいで表からは見えていなかったが、レジ裏は案外広かった。 大きな机の上には、この古本屋が買い取ったのであろう本が乱雑に積まれている。周りにおいてある椅子にもありとあらゆるジャンルの本が積まれていて、地震が起こったらカオスになることは必然のように思えた。 僕がキョロキョロとレジ裏を見回している間に、おっさんは椅子を二脚、何とかして引っ張り出した。 「ちょ、ちょっと座って待ってろ。お茶、お茶持ってくるから!」 何を緊張しているのか、バタバタと足音を立てて店の二階におっさんは消えた。 自分がお茶を取りに行っている間に僕がいなくなるとでも思っているのか、慌てて物をひっくり返している音が二階から聞こえてきた。 その間に僕は先ほどから抱えたままだった本を開く。
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