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すると残されたホームには、この時間にこの街を出発していく人たちが、そこかしこに、たたずんでいる姿があった。学生服の人。パーカーを羽織ったラフな服装の人。大きなリュックを背負った人。スマートフォンを見つめる人。イヤフォンを耳に入れてる人・・・。ここにいる人たちは皆、会社員だった頃の祖父と同じように、一人一人に行き先があって、同じ電車を待っている。祖父と重ねてそれぞれの事情を思っていると、目の前にいる人々の群れが、なんだか愛おしく思えた。
そんな中、見覚えのあるアイテムを見つけた。革のキャメルの鞄。一人ではない。あそこに。そして向こうに。いずれもスーツ姿の男性が、祖父のものとは形は違えど、それぞれに使い古した痛み具合の角張ったキャメル色を、肩にかけていたり、両手で抱きかかえていたりして、自分が乗るべき電車を待っていた。
『黄土色じゃ』
あの祖父の声が耳元に戻り、祖父がそこに居る訳でもないのに、なぜか懐かしい気持ちになった。
僕は隣の祖母を見た。祖母は特定の誰かを見るという訳でもなく、ただそこにある景色を、何も言わずに見ていた。
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