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「うちのみそ汁って、どうしていつも八丁味噌なの?」
僕は、台所で調子よくネギを刻んでいる母の背中に聞いた。我が家の朝食のみそ汁は、薄味が主流の関西圏に住んでおきながら、僕が幼いころからずっと、味も色も濃厚な八丁味噌を使っている。
「おじいちゃんが、好きだったのよ」
母は振り返り、汁椀に刻んだネギを乗せながら、そう答えた。
「みそ汁もなの?」
「そう。うちの朝ごはんはほぼ、おじいちゃんの好みだわね」
白ご飯に、煮干しだしの濃い味噌汁。それに味付けのりと水なす漬けというのが、我が家の定番朝食メニュー。それらはどうやら全てが、祖父好みのものだったらしい。もちろん不満があった訳ではないけれど、食卓に変わらず並ぶものの由来など、これまではちっとも興味がなかった。しかし中学生になってから、『我が家の普通が世間一般のそうではない』ということに、少しずつ気づき始めていた。
祖父は、僕の親父の父で、二年前の春に亡くなった。けれど祖父お気に入りの濃い味噌汁たちは、いつの間にか我が家の味となって、祖父が欠けた食卓でも、当たり前のようにそれは並び続けている。
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