朝めし前の事情

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*  中学生になって初めての定期テストで、陸上部の朝練習が休みになった。 初めてのテストにあたり、早朝に勉強をした方が力になるとういう噂話を信じて、普段より早めに起きてはみたものの、不慣れなことに身が入らず、終始シャーペンをカチカチいわせるだけの時間を過ごしていた。すると階下で祖母が、玄関から出かける気配を感じた。 ここ数ヶ月間抱き続けていた疑問と、『気分転換』という理屈を用いて、僕はとりあえず勉強を置き、この機会に後をつけてみることにした。 しかしこっそり尾行する見積もりが、陸上部に入っている僕の足は、どうしても七十過ぎの老女の速度に追いついてしまう。 仕方なく横に並び、たいした言い訳もせず、 「一緒に行っていい?」 と聞いてみた。  祖母は、 「ああ。いいよ」 と、急な孫の登場に驚く風もなく、そう答えた。 そうして僕はほんの気まぐれで、『朝めし前散歩』に同伴することになった。
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