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祖母の足は、地下道を抜けると左に折れた。そこには路線バスのロータリーがある。そのバスロータリーの二階には、駐輪所が設置されていて、そこに上るためのむき出しの階段がある。まさかとは思ったが、自転車とは無縁のはずの祖母は、その駐輪所に続く階段を、のそのそと、けれど迷いもなく上り始めた。
そうして階段の踊り場に着くと、彼女はつと足を止めた。
僕は祖母の隣に立ってみた。
見るとその、風が吹き抜ける踊り場からは、貝塚駅の構内全体が見渡せるということを、その時僕は初めて知った。線路向こうのタクシー乗り場脇にある場所は、今は居酒屋だが、以前はフライドチキンのフランチャイズ店だったと、親父が話していた。数年前には改札口前にあったハンバーガー屋も、店を閉めてしまい、駅周辺は、僕たち学生が集えるような店は年々減っていた。そしてたいていそういった場所は、お酒を呑める店に置き換わっていく。目の前の居酒屋の看板を、少しだけ恨めしく見つめた。
手前ホームの一番線には、回送電車が止まっている。
『回送って、英語だと“アウトオブサービス”っていうんだな』
車体の表示を見ながらそんなことを思っていると、その回送電車は和歌山市方面へと退出していった。そうして視界を遮っていたものは全てなくなって、構内がとてもクリアになった。
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