月が映す水

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月が映す水

 俺が忘れ物を取りに放課後の教室に入ると、水野咲夜(みずのさよ)の姿が、そこにあった。  水野はつい数ヶ月前に、うちの学校に転校してきた女子だ。テレビでよく見る、やたら人数の多いアイドルグループにいそうな見た目をしている。もっと平易な言い方をすると、水野は可愛いというよりは、綺麗な子だった。学業成績も俺の学年ではトップストリームの位置にいるらしい水野は、まさしく「才色兼備」と言ってもいい存在だと思う。  そんな水野は、いきなり教室に入ってきた俺の方をちらりと一瞥して、桜の花弁が舞い落ちるように、ぽろりと「…葛城(かつらぎ)くん」と言葉をこぼした。俺は決して目立つタイプの人間じゃないが、なぜか俺と水野は、気づくとよく言葉を交わす関係になっていた。水野自身が、あまり周囲と積極的に話をしたりするタイプではないのだけれど、不思議な話もあるものである。 「何してんだ、こんな時間に」 「それはわたしの台詞だよ。何しに来たの、葛城くん」 「忘れ物、取りに来ただけさ。明日の古典、小テストだろ」  言いながら、俺は自分の机の中に置きっ放しにしていた、古文の単語帳を取り出した。ちなみに言うと、俺がこれをテスト前に教室に忘れていったことは、これが初めてではない。以前も、放課後の教室にこの単語帳を取りに来たら、水野がひとりでここにいたのだ。 「葛城くん、またそれ忘れたの」  水野は、俺が手に持っているものを見て、同じことを思ったらしい。くすくすと笑う姿も、また絵になった。なんだか胸の奥がむずむずしてきて「うるせえな」と苦し紛れの悪態をついて、俺は単語帳を鞄の中へ乱雑に放った。

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