第一章

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 ゴソゴソと隣の塊が動いている。背中を向けていた咲良が寝返りを打ち、斎藤の方へ顔を向けた。またモゾモゾ。いつものベッドから布団に変わり寝心地が悪いのかもしれない。いつまでもモゾモゾ動いている。枕ではなく、自分の手を枕にしているから頭がグラグラするのだろう。  斎藤は布団から手を伸ばし咲良用の枕を掴んだ。頭の下へ入れてやろうと思ったのだ。咲良の頭の下に腕を入れ持ち上げる。するとピクッと咲良の瞼が震え、うっすらと目が開いた。目を覚ましたかと思ったが、完全に開く事もなければ、うつうつとまだ半分夢の中のよう。寝ぼけ眼で部屋を見回し斎藤を見ると、咲良は小さな声を出した。 「……ばぁ、ちゃん?」  咲良は斎藤の腕から頭を落とし、うつ伏せになると敷き布団に顔を擦りつけた。それから両肘を突き、重そうに上体を起こしズルズル斎藤の方へ寄って来る。  斎藤は布団を持ち上げ、咲良を布団へ入れてやった。斎藤の腕に頭を乗せ、咲良は目を瞑ったまま幸せそうに微笑んだ。斎藤の体に腕を回しピッタリ体を寄せ、胸へ顔をスリスリと擦りつける。  ばぁちゃんか……。  昔、小学生の咲良はこうやっておばあさんと布団を並べて眠っていたのかもしれない。畳の部屋だったのかも。大人びた顔で教師をからかう言動をしても、中身はまだまだ子供なんだと改めて斎藤は感じた。  まだ高一。十六歳。それが当たり前。それでいい。  準備室で見た光景が思い出される。  まだ早いよ咲良。いや、大人の真似するしかなかったんだよな? じゃなきゃ、あの空っぽの冷たい部屋で毎晩泣きたくなるよな。  斎藤は腕枕でスヤスヤと眠る咲良の肩を抱いて撫でた。  俺は間違ってないと思う。社会的、世間的に見てどうとかは今は置いておこう。保護者の居ない咲良。俺が保護者になってやらないと。今からでも遅くない。寂しかった分、二人で共同生活を楽しもう。な? 咲良。  睡魔がやってくるまで、斎藤は咲良の肩を撫で続けた。    穏やかな眠りは、なかなかやってこなかった。 *****本編試し読みはここまでです。      どうぞよろしくお願いいたします。                    たろまろ
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