第一章

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 放課後、準備室で来週の授業で使うプリントを作っていると、ドアがノックされた。 「どうぞー」  ノートパソコンのキーボードを打ちながら返事をすると、ガラガラとドアが開く。ドアの向こう側から咲良が顔をひょこっと覗かせた。 「カバン取りに来ました」 「おう。入っていいぞ」  足音が真っ直ぐに向かってくる。その気配に口元がニヤケるのを斎藤は感じていたが、何でもないという表情を作って顔を上げた。咲良は傍までくるとキョロキョロ辺りを見回した。 「どこです? 俺のカバン」 「そこにパイプ椅子あるから座れよ」  咲良の問いに答えるでもなく、斎藤は立ち上がり出来立てのコーヒーをマグカップ二つに注いだ。片方に牛乳とスティックシュガーを二本入れてよくかき混ぜる。 「砂糖、二本で大丈夫か? もう一本入れる?」 「もう十分です」  咲良は壁に立てかけてあったパイプ椅子を持ってきて、指示通り机の横へ置くとそこに座った。斎藤はカップを二つ手に持ち、咲良の前にカフェオレになった方のマグを置いてやる。 「そうか? 苦かったら言えよ。もう一本入れてやるから」 「平気ですよ」 「そうか。大人だな」 「いただきます」  静かな準備室に二人の淡々とした会話がテンポよく流れる。  咲良は机のマグカップを両手で包みフーフー息を吹きかけた。砂糖は少なくていいと言ったり、あんなことをしていたのに、カフェオレに執拗に息を吹きかけ冷ます咲良の横顔はとても幼く見えた。三年間着るのを見越して買ったであろう制服は一年生の咲良にはブカブカで、白いシャツでさえ肩が若干落ちている。まだまだ制服に着られているような華奢な体型なのだ。  昨日の姿より、よほど今の姿の方が咲良らしいと斎藤は思った。
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