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「なぁ、咲良……聞いていいか?」
「困ります」
キッパリ言い放ち、咲良は目を寄せマグカップのカフェオレを見つめた。口を尖らせ慎重にカフェオレをズズッとすする。
「ぷぷっ……大丈夫か?」
「大丈夫ですよ?」
「そうか。それは良かった」
斎藤は「うんうん」と頷きコーヒーを飲んだ。妙に穏やかな空気を感じる。咲良が飄々としているからだろうか。しかし、和んでばかりはいられない。斎藤は意を決し本題に入った。
「昨日のやつとは付き合ってるわけじゃないんだろ?」
「どうしてです?」
「付き合ってるの?」
「だったらどうなんですか?」
「恋愛は自由だからさ、人それぞれ好みや趣味もある。別に相手が男だろうと百歳のおばあさんでも俺は構わないと思うよ。ただ子供はダメだ。犯罪になるから」
お前だって俺から見れば子供なんだけどな。と思いつつ咲良の反応を見る。咲良はマグカップへ視線を落としたまま淡々と言った。
「了解です」
「それと……」
シュミュレーション通りそこまで説いて、斎藤の勢いが止まった。
――言いにくい。非常に言いにくい。
斎藤はコーヒーを口へ含み、ゆっくり喉へ流しながら心を落ち着かせた。
当の本人である咲良はそんな斎藤にお構いなしで、呑気な顔をしながらカフェオレをすすっている。咲良の単調な仕草は変に構えられるより斎藤にとっては救いだった。
「本当に昨日のやつと付き合っているのなら、他の奴とはするなよ? 相手は一人にしておけ」
「どうして?」
含みのない声色で小首をかしげる咲良。
こんな時ばかり子供らしい仕草と表情で聞いてくるから性質が悪い。
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