第一章

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 かなりの至近距離。さっきは迫力につい顔を引いてしまった斎藤だったが、今度は負けてなるものかと、更に自ら顔を寄せしっかり咲良の目を見て言い聞かせた。 「そう。さっきも言ったろ? お前は俺の、可愛い生徒だ。全校の生徒を大事にしなきゃいけないのだろうけど、残念だが俺にそのキャパはない。だから俺は、俺のクラスの生徒の事は全力で見ているつもりだ」 「ふ~ん」  またフイッと顔をそむける咲良。一気に興味が失せたとばかりにつまらなさげな表情に戻ってしまう。  だから、さっきからなんなんだよこいつは。  斎藤は苛立ちなのか、焦りなのか、自身でもよく分からない感情に戸惑いを覚えつつ、平静を装った。 「マグカップ洗うの手伝ってくれてありがとう。おお。もうこんな時間だ。送っていくよ。一緒に帰ろう」  斎藤は机の奥に隠しておいた咲良のカバンを手に取ると「ほい」と咲良へ渡した。咲良はぺこっと頭をさげてカバンを受け取る。  咲良を呼び出すための重要アイテムだったカバンだが、目的を達した今、斎藤の中でアイテムの価値はかなり低くなっていた。それは咲良も同じに見えた。カバンを受け取ってもさほど嬉しそうでもない。まぁ、なきゃないでそりゃ困るだろうけど。財布と携帯と鍵だもんな。そんなことを考えつつ、咲良と一緒に準備室を出た。ドアに施錠をして、一階へ降りる。職員室の前まで来ると、斎藤は咲良の耳元へ顔を寄せた。 「校舎の裏の白いプリウス。六が四つのナンバーだから。その前で待ってろよ。ラーメン奢ってやるから」 「え、奢る義理なんてなかったんじゃないの?」  くすぐったそうに首を竦めていた咲良がひょいと姿勢を戻しケロッとした口調で言う。斎藤は持っていたノートで咲良の頭を軽くポンと叩いた。 「言うこと聞かない奴には奢らないよ。お前は今日はとってもいい子だから奢ってやる。待ってろよ」 「うん」  機嫌良さげに口角を上げる咲良に「うん。じゃない。ハイだろ」と小声で言いつつ、斎藤は同じように微笑んだ。
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