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ちゃんと待っていてくれるかな?
心配しながら早足で駐車場へ急ぐ。
咲良はちゃんと待っていた。車へ近づく斎藤へひらひらと手を振る。その姿を見て斎藤は妙にホッとしている自分に気が付いた。
「お待たせ。カバン後ろに置いていいぞ。助手席に……」
咲良は既に助手席側へ回り込んでいた。心得ているかのようなスムーズな動き。車へ乗り込みシートベルトをはめる。斎藤は咲良の住む方面にナビを設定し、職員駐車場を後にした。
「咲良のおすすめのラーメン屋とかあるのか?」
「駅の近くにラーメン屋さんあります」
駅の近くか……と斎藤は少々引っかかったが、学校の最寄りの駅というわけじゃない。他の生徒や教員が目撃する確率は少ないだろう。
「そこ何ラーメン?」
「塩ラーメン」
「塩か~。餃子は美味い?」
「どうだろ、まだ食べた事ないかな」
「そっか。じゃあそこ行ってみよう」
駅前の市営駐車場に車を停めて徒歩三分。オレンジの瓦に真っ黒の暖簾。『麺屋』の横の文字に斎藤はギョッとした。店の名前は『飛翔』だったからだ。
「ぶっ! え? この店、名前、カケルなの? あ、ヒショウか」
斎藤の反応を見てしてやったりとニマニマする咲良。
斎藤が目を丸くしたのはラーメン屋の名前が自分の名前と同じだったからだ。斎藤飛翔それが斎藤のフルネームだ。直ぐに、これが偶然ではなく、わざとなんだと斎藤は理解した。咲良の肩を抱くと引き寄せ、げんこつを頭にグリグリと押し付ける。
「イタイイタイ」
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