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大きなクローゼットを開ける。その中もがらんとしていた。荷物がほぼ見当たらない。クローゼットの真ん中に数枚のシャツがかかっているが、それも制服のシャツ。あとは冬服の上下制服とコート。クローゼットの中に機能的に備え付けられてる棚もほとんどが空っぽ。真ん中の四つの棚だけ服が折りたたんで置いてある。きっとあれが私服なのだろう。
斎藤はそれらを見て言葉を失った。
いくらピカピカに綺麗でも、生活感ゼロの部屋。荷物は五分もしないうちに纏めることができた。キャスターの付いた小さめの旅行鞄に紙袋が一つ。中二の時にここへ来たそのままの荷物なのだろう。しかもまるでここに数日前に越してきたばかりにみえる。
「あ、そうだ。咲良のお父さんに連絡しよう。今、電話して大丈夫なのか? 時差とかあるよな」
「別にしなくてもいいですよ。気にする人じゃないんで」
「……そういう訳にはいかないんだけど……。一応お前は未成年者なわけだし……」
そう言いつつも、咲良の言っている事は間違っていないのだろうと斎藤は思った。
子供のことを少しでも気にかける親なら、ここで咲良が二年半も一人暮らししているはずもない。
「じゃあ……手紙でもいい。とりあえず、マンションじゃない所に住んでいる事を知らせておこう。住所と連絡先……は、知ってるか。それにお前の写真も。な?」
「嫌ですよ、気持ち悪い。メールで連絡しときます」
「そ、そうか……」
斎藤の前にヌッと突きつけられる携帯。
「住所、お願いします」
「お、おお」
斎藤は携帯を受け取り、高校名と咲良のクラス担任であること、住所、名前、携帯の電話番号にメールアドレスも打ち込んだ。
「ほら。これでいいか?」
「はい」
咲良はそこにプラスで文章を書き込み送信をした。何をどう書いたのかは斎藤にはわからなかったが、送信までがやたらと早く、不安が募った。
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