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斎藤家のある町に着いたのは十時半過ぎだった。
咲良は途中から船を漕ぎ出し、一度窓ガラスにゴンと頭をぶつけ、「シート倒せよ」と言う斎藤の声も届かず、頭を完全に自分の肩に乗せて眠ってしまっていた。
伸びまくってる首の筋、起きたらきっと凄く辛いだろうに。
無防備で幼い寝顔。これが咲良自身の姿なのだと斎藤は運転をしながら思いフト気づいた。
空いている教室なら他にいくらでもあった。もっと言えば、トイレの個室なら見咎められることもないのに、なぜわざわざ咲良たちはあそこに居たのだろう。
「…………」
少し考えて答えに至る。
スリルのためだろか? 最初は隠れてしていた。でもそれにも飽きた。だから、更なる刺激を求めて……。
ラーメン屋での会話を思い出す。
俺の名を知っていた理由に咲良は「そういうことです」と言った。スリルじゃなかったら? もし咲良が俺に少しでも信頼を寄せているのなら……準備室での行為は無意識のSOSなのかもしれない。見つけて欲しいと。
斎藤はヘッドライトが照らす、真っ直ぐに伸びる一本道をただ静かに見つめ続けた。
咲良の行動がもし、無意識のSOSなら……。
左に田んぼ、右には民家がポツンポツンと点在している。その民家の中でもひときわ古びた家が見えてきた。斎藤家だ。
後続車など走ってないがウインカーを出し、数メートルの斜面を静かに登る。アスファルトもコンクリもしていない土と砂利の駐車場兼庭へ車を停め、エンジンを切った。
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