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「ほー。さぁ~着いた着いた! 起きろよ!」
隣の華奢な肩をポンポンと軽く叩く。咲良は微かに声を上げて、ドア側に体を寄せた。口元をムニムニ動かしたけど起きる気配がない。ぐっすり眠っている。
「やれやれ」
眠っている咲良をそのままに外へ出る。
空を仰げば、都会とは比べ物にならない圧巻の星たちがチカチカ瞬いていた。斎藤がこの家を借りようと思った理由の一つでもある。とても美しい。だがそれは、周りに明るい建物がひとつも無い地域だということでもある。目の前は真っ暗で見えないが田んぼがあるだけ。まさにthe「田舎」だ。目を覚ました咲良が怖がり、マンションへ帰りたがるかもしれない。斎藤はそこまで考え、部屋の電気をあちこち点けて誤魔化すしかないなと結論に至った。
こんなもんは慣れだよ。慣れ。
後部座席の荷物を下ろす。斎藤はポケットから鍵を取り出し、ガラガラと昔ながらの引き戸の玄関扉を開けた。真っ暗な古い家は不気味だと思われること間違いなしだ。玄関の電気を点け、廊下、台所、居間、寝室側の和室、縁側、風呂場にトイレと、全ての照明を点けて回る。それから和室へ戻り、続きの縁側に畳んで置いてある布団を広げ敷いた。
「よし」
そこまでしてから車へ戻り、咲良へ声を掛ける。
「おーーーい。咲良ーーー。起きろーーー」
「……い」
低めの声でボソッと応えるが、動かない。斎藤は運転席側のドアを閉め、助手席側のドアを開けた。咲良の頭をポンポンと叩く。
「お、き、ろーーー」
「うん……んーーーーー」
両手を持ち上げ伸びでもするのかと思われたその腕が、斎藤の首に絡まる。「え?」と思った瞬間、その腕がグイッと締り、引き寄せられた。
「さく……」
斎藤の鎖骨と首の間にすっぽり埋まる咲良の顔。準備室で男子生徒に身を任せ、うっとりしていた光景が一気に斎藤の脳裏に蘇る。内側から感じる熱にギョッとした斎藤は自らを戒め、浮かぶ画像を脳内から追い払った。
咲良の体を留めているシートベルトを外し、膝裏に腕を入れ、そっと咲良を持ち上げる。持ち上げられるのか? と、多少不安もあったが、咲良はいとも簡単に持ち上がった。
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