第一章

33/36
前へ
/36ページ
次へ
 先程咲良のマンションで送ったメッセージの返事だった。斎藤は一先ず、和室へ入り、敷いておいた布団に咲良を横たえた。首に回っていた手がぷらんと落ちる。コロンと横向きになると布団に顔を擦りつけもぞもぞと丸くなっていく咲良に掛布団を掛け、玄関へ咲良の携帯を取りに戻る。  暗くなってしまった画面にタップし、メッセージを見る。相手のメッセージの下に表示されてるのは咲良が送信したメッセージだった。斎藤が打ち込んだ住所、名前などの下に咲良の文章。 『担任の先生のところでしばらくお世話になる事になりました。住所です。』  愛想も甘えもない文章。しかし、そうなってしまう原因はこのメッセージのやり取りだけで十分伝わってきた。  わかったって……。なんだそれ。面倒をかけないようにって、面倒かけるのが子供だろうが。  キリキリと苦々しい思いが湧き上がる。そして斎藤はハッと思い立った。  もしかして俺の携帯にも電話があるかもしれない。いや、あって当然だろう。どんな事情があるにせよ。未成年を放置していた事実に変わりはない。俺がビシッと言ってやる。  斎藤は息巻いて玄関に置いたままの鞄から携帯を取り出した。やはり着信の表示。しかし、電話ではなくメールだった。 『ご迷惑をおかけしますが、よろしくお願いします』の文章と、名前、アドレス、電話番号のみ。見知らぬ人間に息子を預ける心配も、怒りも、謝罪も、育児を放棄した言い訳も一切無い。 「はぁ……信じられないな」  どうやって返事をしようと考え、斎藤は文章を打ち込んだ。 『一度、息子さんの件でお話をしたいです。親御さんとしても心配だと思いますので。ご都合のいい日時を教えていただければ私から連絡いたします。どうぞよろしくお願いします。おやすみなさい』  相手がどこの国に居て、今が何時なのか分からないが、斎藤はそう挨拶を打ち込みメールを送信した。
/36ページ

最初のコメントを投稿しよう!

347人が本棚に入れています
本棚に追加