348人が本棚に入れています
本棚に追加
咲良は飛び退いた相手に気づいたのか、委ねるように閉じていた瞼をゆっくりと開き斎藤を見た。
教師に、ましてや担任に見られたというのに、咲良に慌てる素振りは微塵もない。これまたゆっくり体を起こすと、半分はだけたシャツの真ん中のボタンを一つ留め、ぴょんと机の上から飛び降りた。
斎藤同様、固まっている相手生徒の肩をポンポンと叩き「じゃあね」と何食わぬ顔で言うと、そのまま斎藤の方へ向かって歩いてくる。斎藤の目の前まで来た咲良は、何食わぬ顔で首だけちょこんと落とすお辞儀をして、部屋から出て行こうとした。
「ちょ、ちょ、ちょ」
我に返り、やっと体が動いた斎藤は慌てて咲良の腹部へ腕を回しその体を押し留めた。そのまま相手の男子生徒を見る。
「君は一年、B組だっけ?」
「え、いや……あの」
口ごもる男子生徒を遮るように咲良が言った。
「先生、放してよ。俺、授業戻らなきゃ」
「もう授業はないよ。あ、おいっ」
男子生徒はオロオロしていたが、斎藤と咲良のやり取りの隙に、咲良の横をすり抜けダッシュで逃げ出した。しかし斎藤は男子生徒を一瞥しただけ。
アホかあいつ。顔見りゃどこの誰かなんて後でも分かるっつーのに。それよりもだ。
逃げ出した男子生徒に目もくれず、斎藤は咲良を見下ろし低い声を出した。
「咲良、お前、五時間目サボって何やってんだ?」
最初のコメントを投稿しよう!