第一章

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 咲良は体をずらして一歩下がると、斎藤を真っ直ぐ見た。そして今度はちゃんと頭を下げる。 「ごめんなさい」  ガラリと態度を替え、しおらしい様子で素直に謝罪をした咲良だったが斎藤には通用しない。それが上辺だけのものだと分かっていたし、重要なのは謝罪ではない。 「ごめんなさい。じゃない。何をやってるんだって聞いてる」  頭を下げたまま咲良はキョロッと斎藤を見上げた。 「見てたでしょ?」 「見てたよ?」 「そういうことです」  頭を上げ、あっけらかんと言い放つ。斎藤は腕時計を見て時間を確認すると、若干厳しめの声で咲良へ告げた。 「お前、ここで反省文な。ショートホームルームは出なくていい。俺が戻ってくるまでここで自分のやっていた事をよく考えて反省しろ」  机から原稿用紙を四枚取り出し咲良へ渡すと、咲良は「予想外だ」という表情で言った。 「四枚も何を書くの?」 「小学生じゃないんだ。それぐらい自分で考えろ」  斎藤はピシャリと言って、準備室から出ると外から鍵を掛け教室へ急いだ。  ショートホームルームをしながら、今、目撃したことを学年主任に相談すべきかと悩んだ。おおごとにしたくない。という気持ちもあった。  さっきは気が動転していたが、咲良の話をちゃんと聞いて反省すべき点をちゃんと反省しているようなら、初めての事だしきつく叱るだけでもいい。相手の生徒だって今頃はビクビクしているに違いない。いつ担任から呼び出されるかもしれないと怯えさせておくのもいい薬になるだろうと考えた。  ショートホームルームを終えた斎藤は、教室に一つ残された咲良のカバンを持ち、科学準備室へ戻った。どういう顔をすればいいのか考えつつ、指導するべき言葉を頭の中で反芻しながら歩く。  鍵を開け、ドアを開き、斎藤は目を疑った。
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