第一章

6/36
前へ
/36ページ
次へ
 そこにいるはずの咲良の姿はなく、机の上には原稿用紙だけが残されていた。  原稿用紙には、授業をサボったことへの謝罪。担任の斎藤に迷惑をかけたこと、相手を誘い出したのは自分だということ。もう授業はサボらないという約束。そして、最後は「やっぱり四枚はさすがに無理でした」と締めくくられてあった。きっちり原稿用紙一枚分に。  ドアは外側から施錠してあったけれど、窓は内側からの施錠が外してあった。どうやらここから廊下へ出たらしい。 「あいつもバカだな。カバン俺が持ってるのに……」  咲良のカバンの中には財布も携帯も入っていた。もちろん定期もだ。  どうやって帰るつもりなんだ?  斎藤は呆れ果て机に腰掛けると反省文を最初からじっくり読んだ。ちゃんとした反省文の格好をしているけど、男子生徒と淫らな行為をしていたことについては一切触れられていない。  まぁ、俺としても「キスするな」とは言いたくない。それほど野暮ではないとは思ってる。でも相手は男子生徒だったんだぞ? しかも自分だけさっさと逃げるようなクソ野郎だ。そんな奴と咲良が純粋にお付き合いしているとは思えない。そこも斎藤は咲良に詳しく話を聞きたいと思っていた。やりきれない思いに肩を落とす。 「はぁ……まぁ、いいや。テスト作ろう」  咲良のカバンを足元に置き、机の一番下の引き出しに鍵を差し込みテストの原案を出す。パソコンを立ち上げ、下書きノートに記した問題を画面に打ち込んでいった。打ち込みながら考えるのはやっぱり咲良のことだった。
/36ページ

最初のコメントを投稿しよう!

348人が本棚に入れています
本棚に追加