8. 一人の女と男

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「ねぇ聞いてよ。今日も警察の人が来たのよ」 「ここに?」 後片付けや戸締まりをしながら合川が話す。 「うん。本社に内定が決まってた女の子が亡くなったらしくて、何か知らないかって。何も知らないって言ってるのに。もう三回目よ?」 呆れたように腰に手を当てて彼女が愚痴をこぼす。馬場はなんと返事をすべきか少し考えてから、提案をした。 「嫌なら美代のお父さんに頼んで圧力かければいい」 「そうね。あ、ちょっとバックヤードで整理してくるから、フロアにいてくれる?」 「分かったよ」 軽い調子で頷くと、ファイルの束を持った彼女がバックヤードへと姿を消す。馬場は人通りがまばらな外を眺めながら、ポケットに両手を入れていた。
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