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第6章 針
通夜が終わるまでは、怪しいと思った人物には近づかないことだ。
私は手伝いを放棄し、トイレの中に閉じこもった。
そして改めて、ハンカチから針を取り出した。
得体の知れない人物と、この針は何かしらの関連性があるとしか思えなかった。
両方とも、この世の物ではないのだから。
私は試しに針の先端を指先で触ってみた。普通の針だ。
今度はもう少し力を入れてみる。指先の皮膚に針がめり込んだ。
不思議とチクリとした痛みもない。
その瞬間、針は指先の中に引き込まれるように、
スルスルと指の中に入り込んでいった。
針を取り出そうと思っても、引き込まれる力にはあらがえない。
底なしの沼に沈んでいくように、針は皮膚の中へと入り込み、
ついには指先から体内へと消失してしまった。
入り込んだ部分を指で押し出すが、針は出てこない。
そもそも入り込んだ傷口が見あたらない。
凄まじい恐怖が私を支配する。やはりこの世の物ではなかった。
全身の毛が逆立ち、血の気が引いた。
居ても立ってもいられず、慌ててトイレから出た。
勢い良く扉を開けると、目の前には小柄で痩せた男が立っている。
野上だった。野上はニッコリと笑って私の目をじっと見つめた。
何の感情も感じられない笑みだった。
その笑顔を見て、私の身体は自然と震え始めた。声も出なかった。
これほど空っぽな笑顔がこの世にあるのだろうか。
まるでこの世界の住人ではないような――。
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