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第7章 イースター・エッグ
私は野上を祖父の書斎へと案内した。
途中、助けを求めることもできたが、やらなかった。
この得体の知れない男の前では、何をしても無駄だろう、という変な諦めがあったからだ。
書斎に入ると電気がついていた。どうやら電気をつけたまま出てきてしまったらしい。
机には先ほど読んだカルテや日記が散らかったままだった。
家族に気付かれていたら、怒られるところだった、と思わずホッとした。
こんな危機的状況になっても、日常生活のことに囚われている自分が、
情けなくも図太く感じられた。
私は祖父の机の引き出しから、例の標本箱を取り出した。
「これです」
野上は標本を一通り見渡したが、首を横に振り標本を机の上に置いた。
針は標本箱には入っていないようだった。
野上は、ため息をつきながら、書斎机の椅子に腰を掛けた。
「あの……」
私はそこまで言って黙った。
何か言いたそうな私を察してか、野上は重々しく口を開いた。
「事情ですよね」
「はい。この針は一体……」
「これはイースター・エッグです」
「イースター・エッグ?」
以前、本で読んだことがあった。
日本ではあまり知られていないが、キリスト教圏の風習で、
春の到来を祝うお祭りの飾りつけに使う卵のことだ。
その卵は“生命の始まり”を象徴しているらしい。
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