4人が本棚に入れています
本棚に追加
「もう気づいていると思いますが、あの針に刺された生き物は、
絶対に死にません。不死の針です。身体が粉々になろうが、
千切れようが死にません。ただし痛みは感じますし、再生もしませんが」
にわかには信じがたい話しだが、
目の前で不思議なことが起こりすぎていた。
野上の話しを信じるしかなかった。
「ちなみにですが、この針で、祖父を刺した場合は……」
野上はゆっくりと首を横に振った。
「残念ながら、すでに亡くなられた方には効果はありません」
「……なぜ、このようなものが存在するんでしょうか」
野上は窓をゆっくりと開け、夜空を見上げた。
「あなたのおじいさんは、神様を動かしたのです」
「か、神様?」
窓から季節外れの蝶が舞い込んだ。あの時の蝶だろうか。
「自分の命など顧みず、自らを実験台にし、医学に貢献した方です」
野上は机に散らばる記録をパラパラとめくった。
「神様も感銘を受けます。そんな男をずっと見ておきたい、死なせたくないと思ったのでしょうね」
書斎の天井を一巡した蝶は、静かに机の上に止まった。
「多少規則を犯しても、この世にそんな男を留めておきたいと思った神様がいたんですね」
野上は蝶の上に、例の針を突き刺した。
「昆虫をキレイな形のまま、箱に留めておくように」
最初のコメントを投稿しよう!