第8章 脱走犯

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第8章 脱走犯

気がつくと私は、冷たいコンクリートの床に倒れ込んでいた。 廃墟の一室にいるようだが、部屋が暗くてよく分からない。 両手は後ろに回され、ロープで縛られている。身動きが取れなかった。 目が慣れてくると、椅子に座る人影のようなものが見えた。 一瞬、山中かと思ったが、背格好がだいぶ違った。もちろん、野上でもなかった。 その人影も私が目覚めたことに気づいたようだった。 「気づいたか? 大丈夫か?」 よくよく見ると、その人影も椅子に縛り付けられ、 身動きが取れないようだ。状況は私と一緒らしい。 「あなたは?」 「日阪、日阪啓介」 どこかで聞いたことがあった。 暗がりの中、もう一度顔をよく見てみる。 「H刑務所の……、脱獄犯?」 ヨシミ叔母さんが仮通夜の晩、見ていたテレビを思い出す。 「……ああ」 ニュースで飛ばし見した知識しかないが、 強盗殺人の容疑で無期懲役が確定している凶悪犯人である。 椅子に縛られているとはいえ、 暗がりの中で、こちらも身動き取れない状況で二人きりとは、 恐怖でしかない。涙が止まらなかった。
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