4人が本棚に入れています
本棚に追加
第8章 脱走犯
気がつくと私は、冷たいコンクリートの床に倒れ込んでいた。
廃墟の一室にいるようだが、部屋が暗くてよく分からない。
両手は後ろに回され、ロープで縛られている。身動きが取れなかった。
目が慣れてくると、椅子に座る人影のようなものが見えた。
一瞬、山中かと思ったが、背格好がだいぶ違った。もちろん、野上でもなかった。
その人影も私が目覚めたことに気づいたようだった。
「気づいたか? 大丈夫か?」
よくよく見ると、その人影も椅子に縛り付けられ、
身動きが取れないようだ。状況は私と一緒らしい。
「あなたは?」
「日阪、日阪啓介」
どこかで聞いたことがあった。
暗がりの中、もう一度顔をよく見てみる。
「H刑務所の……、脱獄犯?」
ヨシミ叔母さんが仮通夜の晩、見ていたテレビを思い出す。
「……ああ」
ニュースで飛ばし見した知識しかないが、
強盗殺人の容疑で無期懲役が確定している凶悪犯人である。
椅子に縛られているとはいえ、
暗がりの中で、こちらも身動き取れない状況で二人きりとは、
恐怖でしかない。涙が止まらなかった。
最初のコメントを投稿しよう!