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「意識を取り戻して、すぐのことだった。お袋に夜中起こされてね……」
あの記録には、母子ともに最悪の状態を脱した経緯までは
書かれてあったが、それ以降が白紙だった。
「病院を逃げ出した?」
私がそう言うと、日阪は頷いた。
母親の経過は順調だったが、子供の治りは遅かった。
おそらく母親は子供が治り切るのを待たず、
治療中の子供を無理やり連れ逃げ出したのだ。
治療費の支払いを拒否するために。
「2人で逃げたのはいいが、結局は足手まといになった俺を残して、
お袋はどこかへ消えた。その後、俺は施設を転々としながら、
気がつけば、ヤクザ生活。あの時、助かったことを何度恨んだことか」
私は「奇跡は不要」という、祖父の記録を思い返していた。
「俺は底辺の生き方を続け、ある日ついに地に落ちた」
「……」
「盗みに入った家の女を殺したんだ……」
扉の鍵が開く音がした。
暗がりの部屋に照明が照らされる。
眩しさに抗いながら、扉を見ると、そこには山中が立っていた。
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