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奇跡をあげるから――。
と、電話越しに祖父はそう言った。
その言葉は、私を慰めるための嘘のようにも聞こえたが、どこか真に迫っていた。
一流の医師になりたい。たくさんの人を救いたい。祖父がそうであったように。
そんな殊勝な思いは、露と消え去った。
最初に受け持った患者は、末期の肝臓がんだった。数時間前までは死の予兆はなかった。
だが容態が急変し、呼吸と心臓が止まった。その日、指導医はいなかった。
一刻を争う事態にも関わらず、私は目をつむり、震えながら、
心の中で神様に助けを求めていた。
「今は先生しかいないんだよ! 早く心マ!」
看護リーダーの叱責で我に返った。その後は無我夢中だった。
肋骨が折れるほどの力で心臓マッサージを行い、強心剤を注射した。
「せめて家族が来るまでは……」
と奇跡を願ったが、思いは届かず、その患者が蘇生することはなかった。
医師も人間である。ましてや私など駆け出しの研修医に過ぎない。
初めて目の当たりにした患者の死は、私にとって重すぎる出来事だった。
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