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第2章 蝶
あの電話からすぐのことだった。
祖父の容態が悪くなったと聞き、慌てて祖父母の元へ向かった。
H県にある小さな田舎町だった。
向かう途中、せめて死に目に会わせてほしいと願ったが、叶わなかった。
私が着いた時には、祖父はすでに病院から自宅へと移された後だった。
大往生のせいか、周囲の悲しみは浅いものだったが、
私だけは祖父の死に顔を見て、わんわんと泣いた。
父や母は、仮通夜の準備は手伝わなくて良いと、私を気遣ってくれた。
私は2階にある祖父の書斎に入り、机に突っ伏してまた泣いた。
夏の夕暮れだった。窓は開いていて、
頬を伝う涙を撫でるように、ひんやりとした空気が流れ込んだ。
しばらくして祖母が書斎に入ってきた。
「ユリちゃん、これ」
祖母が手渡してきたのは古びた鍵だった。
「じいちゃんが、ユリちゃんに渡して欲しいって」
「何の鍵だろう」
「机の引き出しの鍵じゃないかね」
机の一番下の引き出しの鍵穴に鍵を入れてみるが、
錆付いていて開きそうになかった。鍵穴を掃除し、ようやく引き出しを開けた。
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