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中にはドイツ箱が入っており、
そこには10匹以上の蝶の標本が収まっていた。
「ユリちゃん、小さいとき昆虫採集好きだったもんねぇ」
祖母は微笑んだ。
「そういえば、そうだったね」
「じいちゃんの宝物だったのかしらねぇ」
「結構、古びてるけど」
「10年前のものらしいね」
箱の裏には日付が刻印されていた。
「おばあちゃん、ありがとう」
私に笑顔が少し戻ったのを見て、
祖母は「風邪引かないように」と言い残し、部屋を出ていった。
しばらくの間、標本を眺めながら、祖父と一緒に昆虫を捕まえ、
標本づくりに明け暮れた夏休みの日々を思い返していた。
ふと気付くと、日はとっくに暮れていた。
標本を机の中に戻そうとした時、ある小さな違和感を覚えた。
蝶を止めている昆虫針の中に、やけに大きなサイズの針が混じっていたのだ。
そして針に刺されている蝶も異質だった。他の乾燥された蝶と違い、
生命のみずみずしさに満ち溢れていた。
蝶がピクリと動いた気がした。まさか、と思った。
10年も前の蝶のはずだ。恐る恐る箱を開けてみると、
防腐剤の独特の香りが広がった。
針を抜いた瞬間――
――その蝶が羽ばたいた。
私は唖然とした。
蝶はやがて、私の上を軽やかに舞い、窓から外へと消えていった。
私はそれを追うように、窓から顔を出したが、
蝶は夜の暗がりに溶け込み、もう見えなくなってしまった。
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