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第4章 本通夜
夜通しの仮通夜は終わり、今日の夕方から本通夜が始まる。
その準備で忙しいというのに、私は相変わらず祖父の書斎に籠もっていた。
例の針のことが気になって仕方がなかった。
申し訳ないと思いつつも、祖父の日記や昔のカルテを漁った。
あの瞬間、あの蝶は舞った――。
もしこの針に、永遠の命を約束させる力があるとしたら、
挫折しかけている私の医師人生は変わる。
それこそ、どんな命でも救うことができるかもしれない。
患者の記録は全てイニシャルや仮名で書かれており、
情報の深追いは難しそうだったが、それでもこの針の効力を示すには、
十分すぎるほどの内容が書かれていた。
山からの転落事故で、心肺停止の状態で運ばれてきた
母親と子供を同時に蘇生させた事例などは、
当時の医療技術や機器不足のことを考えると、
まさしく奇跡としか言いようがなかった。
さらに驚かされたのは、祖父が自身の身体を実験体として、
ワクチンの開発や医療技術の研究を密かに行っていたという点だった。
「絶対に死なない」ということが約束されていれば、
確かに無茶な人体実験も可能だったのかもしれない。
祖父がつけていた記録の最後には、意味深な言葉でこう書かれていた。
――××年×月×日、奇跡ハ不要ナリ。
その日付は、あの昆虫標本の箱の裏に刻印されていた日付と一致していた。
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