2人が本棚に入れています
本棚に追加
/2ページ
氷上
幼稚園の頃からスピードスケートをしているんだけれど、最近どうにも記録が伸び悩んでいる。
オリンピックどころか国内の選手権も夢のまた夢な才能でも、好きで続けていることだから、できたらもっと速く滑ることができるようになりたい。
そう思い、自分なりにあれこれ工夫を凝らしていたのだが、ある時、速い人の滑ったトレースをそのまま辿って滑ると自分も速くなれる、という話を友達から聞いた。
半信半疑で聞いていたが、人のトレースをなぞるだけで速くなるなら試してみる価値はある。
ダメ元で一度やってみようと心に決め、私は、うちのクラブで一番速い子と練習日を合わせ、その子のトレースを辿ることにした。
学校が終わると同時にクラブに顔を出し、一番速い子が現れるのを待つ。けれどいつもならそろそろ来てもいい時刻になってもその子は姿を現さない。
もしかして今日は休みなのだろうか。
残念な気分で練習に向かった私の目に、とても速く美しい姿でリンクを滑り抜ける選手が映った。
見たこともない後ろ姿だけれど、新しくクラブに入った人だろうか。でも、とりあえず相手のことよりも、今の人のトレースを辿りたい。そうすれば私も速く滑ることができるようになるかもしれない。
頭の中は自分の記録を伸ばすことだけでいっぱいになり、私はいそいそとリンクに降りた。
他に滑っている人が誰もいないリンクには、たった今目の前を滑り抜けた人のトレースだけが残っていた。
迷わずそこを辿って滑り出す。すると不思議なくらい体が軽く感じられ、私は自分でもそうと判る程のスピードで氷上を滑り始めた。
あの話は本当だった。速い人のトレースをなぞるだけで、自分もこんなに速く滑ることができるようになるなんて。
きちんと記録している訳ではないけれど、体感で、確実にいつもより速度が出ていることは判る。
この感覚をしっかり掴んで、この先確実に自分ものにしたい。
最初のコメントを投稿しよう!