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★ファウスト
夜、腕の中の体が身じろいだ。汗をかいて苦しそうにしているランバートは、それでも体を硬くしている。寒いのだろう。
解熱の薬を飲ませた方が楽になるだろうか。思って体を離そうとして、その手を引かれた。
ランバートの手が強くファウストの手を握っている。はずそうとしても抵抗があった。
大人しく隣に寝転び、同じように抱いている。背中を撫で、頭を撫でていると、少しずつ入っていた力が抜けていくのが分かった。
「……に、しな……そば…」
とても小さな声が言う。訴えるような、辛そうな声だ。
「側にいるから、安心して寝ていい」
こんなことしか言ってやれない。それでも徐々に険しかった表情が穏やかになってくると、ファウストも安心した。
十年近く風邪を引いていない。
ランバートはそう言っていたが、おそらくそうじゃない。
こんな風に体調を崩した事はあっただろう。多分、倒れなかっただけだ。そんな事をしているうちに鈍感になって、こんなに酷くなるまで自覚できなかった。
エリオットは、肺炎にはなっていないと言っていた。体質として、熱が高くなりやすいのだろうと。体力もある奴だから、熱が下がり始めれば大丈夫だと言ってくれた。
「まったく、あまり心配をかけさせるな」
こいつが倒れた時、驚きと焦りがあった。そんな姿を見たことがなかったから。虚ろに見上げられる事が、怖かった。青い瞳から生気が消えたように思えたのだ。
あの場にオリヴァーが居てくれて助かった。さすがは第四師団師団長だ、対応と冷静さが違った。テキパキと指示が飛んだおかげで、冷静になれた。
腕の中でランバートが身じろぐ。少しだけ、こわばっていた表情が穏やかになった。汗で張り付いた髪を撫で、ファウストも微笑む。楽になってくれただろうか。
緩く眠りが押し寄せてきて、ファウストもランバートを抱いたまま眠りについた。
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