風邪

1/5
429人が本棚に入れています
本棚に追加
/28ページ

風邪

 ふわりと浮き上がってくると、体が痛んだ。動くのが辛いくらいの痛みだった。それに、とても寒い。薄い服で外に放り出されたようだ。その寒さが余計に、体の節々を痛ませた。  不意に大きな手が頭を撫でた。温かくて、優しくて。甘えると、少し楽になるような気さえした。 「目が覚めたか、ランバート」  静かで穏やかな声に目を開ける。暗い室内に溶け込むように、穏やかな黒い瞳が覗き込んでいた。 「…っ」  声を出そうとして、出ない事に驚く。無理に出そうとすれば痛んで咳が出た。その咳がまた痛い。苦しくて、唾を飲み込む事すら嫌になった。 「水、飲めるか?」  背中に手が回って、ゆっくりと上体を起こされる。起き上がると上手く体を支えられなかった。世界が常に揺れているようで、バランスが取れない。意識もボーッとして、少し浮いているような感じがした。  唇に冷たいコップが当てられて、水を飲まされる。気持ちいいのに、飲み込むのはやっぱり辛い。それに、寒さはまったくおさまらなかった。 「今、エリオットを連れてくる。横になって少し待っていてくれ」  離れて行くのを寂しいと思ってはいけないだろうか。     
/28ページ

最初のコメントを投稿しよう!