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驚くべきことに、やっていけるのだった。
それどころか、こちらのほうが効率が良いまである。
部長になってから再び半年は、何がなにやら、どれが仕事でどれが仕事でないのかすら分からない状態だったため、俺もそのことに気が付くことはなかった。
というより、ずっと疑問を抱きながら会社に行っていた。
だが、或る程度把握できるようになると、非常にスマートに運営がなされていることが分かった。
まず、極端なことを言えば、有人で出来ることはほとんど限られている。
AIがほとんど全てを担ったこの時代、残されたのは古臭い言葉だが『人間力』なのだ。
そして現場で働く「平」が気遣いが出来、下が頼られることの必要性を知っている人間であるがゆえに、会社は上手くいく。
部長が、課長が、次長が、係長が、役職持ちが平を頼る。
そうすることで、上の人間も下の重要性を生存レベルで学ぶことが出来る。
また、新人の段階で配属されるため、いくら役職持ちでも傲慢化することがない。
社会でもまれてきた人間に囲まれて、若造がそんな振る舞いはまずできない。
さらに下の側でも、経験豊かとはいえあくまで「平」であるから、横暴な人間になることもない。
技術がもたらした変革により、可能になったシステムだった。
同じ部の平社員に時々聞く話も興味深い。
よくある上司の自慢話でない、いかに「人を分かるか」「善くなるか」といった身につまされる話であり、不快になるということがなかった。
60の定年を控えた主事の話が特に耳に残っている。
「最初にえらくなって、そんでそこからどんどん下に行って……そうやって、会社を土台から支えていく。良いと思いました。これが理想のあるべき姿だと」
「あるべき姿、ですか」
「そうです」
主事はわずかに首を動かして
「人間、強くあり続けることは出来ない。いつかは弱くなる。なら、弱い立場を目指して頑張るべきです」
自然と俺は頷いていた。
確かに、人間は強くあり続けることなんて出来ない。
もっと俗に言えば、いつまでもオラついてなんかいられない。
時間が、肉体が、社会が、それを邪魔する。
なら、弱さを知るべきだ。
そこにたどり着けるよう、努力するべきだ。
その姿を見て、俺はいつしか、『降格』を目指し始めていた。
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