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※※※※※※※※ 妙な会社だった。 こんなことをいえば、俺のような人間を拾ってくれた会社に失礼である。 だが、奇妙な会社だった。 …そう。 俺は就職を果たしていた。 どういう理由からかーー奇跡でも働いたのかーーーこんなクズを極めた芦汰黎を拾い上げてくれた企業があった。 大きい会社ではない。 だが、その業界では確かな技術で食いつないでいるところであり、福利厚生も良いらしい。 何百連敗も更新し続けてきたところだったから、俺はまさに神の助けとそこに食らいついた。 スーツを着て、背を誇りで伸ばし、足を踏み出す。 いよいよ社会人かと胸を緊張と期待で一杯にしていた。 初出勤の日。 地方の街中にオフィスを構えるその会社は、駅からすぐ行ったところにある。 遅れないよう早めの電車を拾い、緊張を抱きながらも余裕を持って自動ドアをくぐった。 社員用の戸口に歩を進めていく。 そのまま壁際のエレベータまで進んだところで、声をかけられた。 「芦汰さんですか?」 振り返ると、やせた顔に、少しだらしない腹。 そして黒が混じった白髪に、きつい目つきの男が立っていた。 印象が散漫な人だと感じた。 俺は昨日必死で覚えたメモを頭の中で探りあてて 「あ、はい。ええと、あなたは…」 「根元です。よろしく」 差し出された右手を、そろそろと握り返す。 その名前だけは既に馴染みのものとなっていた。 事前に受けていた説明によれば、この人が俺のメンターになるはずだった。 つまり相談役だ。 直属の上司には話しにくいことを、別の部署の人間がメンターとして新入りをサポートする。 そういう以前の習慣は、まだ日本の会社からは抜けていないのである。     
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