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妙な会社だった。
こんなことをいえば、俺のような人間を拾ってくれた会社に失礼である。
だが、奇妙な会社だった。
…そう。
俺は就職を果たしていた。
どういう理由からかーー奇跡でも働いたのかーーーこんなクズを極めた芦汰黎を拾い上げてくれた企業があった。
大きい会社ではない。
だが、その業界では確かな技術で食いつないでいるところであり、福利厚生も良いらしい。
何百連敗も更新し続けてきたところだったから、俺はまさに神の助けとそこに食らいついた。
スーツを着て、背を誇りで伸ばし、足を踏み出す。
いよいよ社会人かと胸を緊張と期待で一杯にしていた。
初出勤の日。
地方の街中にオフィスを構えるその会社は、駅からすぐ行ったところにある。
遅れないよう早めの電車を拾い、緊張を抱きながらも余裕を持って自動ドアをくぐった。
社員用の戸口に歩を進めていく。
そのまま壁際のエレベータまで進んだところで、声をかけられた。
「芦汰さんですか?」
振り返ると、やせた顔に、少しだらしない腹。
そして黒が混じった白髪に、きつい目つきの男が立っていた。
印象が散漫な人だと感じた。
俺は昨日必死で覚えたメモを頭の中で探りあてて
「あ、はい。ええと、あなたは…」
「根元です。よろしく」
差し出された右手を、そろそろと握り返す。
その名前だけは既に馴染みのものとなっていた。
事前に受けていた説明によれば、この人が俺のメンターになるはずだった。
つまり相談役だ。
直属の上司には話しにくいことを、別の部署の人間がメンターとして新入りをサポートする。
そういう以前の習慣は、まだ日本の会社からは抜けていないのである。
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