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そして俺のようなただでさえ不安を抱いている人間にとって、こういう制度は実にありがたい。 「じゃあ、もう直接仕事場に行こうか」 顔に似合った渋い声を前に聞きながら、俺はエレベータに乗る。 いくらメンターとはいえ、しかしやはり会社側の人間だから果たして全面的に信用していいものか。 そんな敵意も、エレベータの中のわずか1分ほどの会話で氷解してしまった。 根元はさかんに手振りを交えてしゃべり、分かりやすい説明を心がける。 沈黙が起こることもめったになく、といっても息苦しくなるほど続くわけでもない、丁度いい塩梅。 人との距離のバランスを完全に心得ている人間だった。 そして他の会社の同僚・上司も、軒並み優しい人達だった。 微かに揺れた鉄の箱を残して、廊下を進む。 そんなガチガチに緊張していた俺を、みんなあたたかく出迎えてくれた。 性格の傾向は様々だが、それらが摩擦を起こさず、まるで芸術建築のように上手く調和していた。 狭いながらも開放的なつくりのオフィスには、デスクやイスなど、色があふれている。 明るい、居心地のよい空間がそこにあった。 こんな俺にとって、これ以上ない待遇だったといえるだろう。 メーカー営業として(ある特殊技術で会社の根幹が支えられているらしかった)の力も着々と身についていく。 忙しさの中で、同僚と軽く冗談を交し合う。     
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