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万里子さんは涙ぐんで言う、そんな姿に胸を締め付けられた、言わなくちゃ、東吾には言えなかった事。
「私なら大丈夫です、あの……その……実は、最後の最後までは、やってないんです、だから、その、私は……傷ついてません」
正直に言うと、ほんの少し万里子さんの頬が染まった。
「そうだったの……」
「あの、私が勝手に思っている事なんですけど。健次郎くん、本当に私が好きだったのかなって……酷い事はされましたけど、それって自分の事を見てほしいって言ってたんじゃないのかなって思えて……もし自分だったら、と思ったら、怒れないと言うか、いえ、怒ってますけど、私もこれからは気を付けますし」
もし、自分だったら。
私に姉妹はいないけれど。もし姉や妹がいて、東吾が私ではなく姉妹を選んだと想像したら。
やっぱり、哀しい。
少しでいいから自分の気持ちも気付いてほしいと、思ってしまうのでは……その方法は様々あるだろうけど、自分が男だったら、やっぱり無理矢理でも、とか……。
「健次郎くん、最後まで服を脱ぎませんでした。それって、本当に私を犯すつもりはなかったんじゃないかって思うんです。東吾が来てくれなかったらどうなっていたかは判りませんけど……」
言うと、万里子さんはこくんと頷いてくれた、そして少し涙目のまま話し出した。
「──お引っ越ししてから、亜弥ちゃんに会いたいって言ったのは、健次郎だったの。でも名前も覚えてなかったのかしら、「あのお姉ちゃんはもう来ないの?」って言ったのよ。私、「誰の事?」って聞いちゃったの覚えてるわ。まさか健次郎が亜弥ちゃんに会いたがるなんて思わなくて。それから東吾と二人で亜弥ちゃんの写真見ながらなんだか仲良く話してる姿は見ていたけど──まさか、健次郎がそこまで思いつめていたなんて……」
そう言うと、何か思い出したように微笑んだ。
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