6.

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そして私は毎日のように茶道と着物の着付けを教わる日々。一生修行とは言われたけど、とりあえず見様見真似だけでも形にはしたいとは思う。 茶道は、時間が空いた時にお義父さんと万里子さんと東吾が教えてくれる。おじいちゃんにも教わったけれど、基本的におじいちゃんは東京にいるのであまり会わない。 おじいちゃんも厳しい方だけど、一番厳しい、いやうるさいのは、この男だ。 柄杓を置いた手を、ぱしんと扇子で叩かれる。 「指が離れるまで気を抜かない!」 そう、東吾だ。 「もう、いちいち叩かないでよ! 大体、扇子って叩くための道具じゃないでしょ!?」 「ちゃんとやれば叩かない」 「口で言えば判るのよっ」 「ああん?」 あ、これ、右の眉をぴくって上げるの、これ、怖いんだーっ。 「口答えは許さん」 「もう、そこまで口うるさいのは東吾だけだよっ」 お義父さんと万里子さんなんて、主客が座る場所から教えてくれるけど、それも褒め上手なんだよね、少し悩んだり間違えたりしても「ん、いいよ」って言ってくれるのに。 おじいちゃんは真横に座ってたな、でもぶったり怒ったりしなかったのに、この男は目の前に座って一挙手一投足に文句を言う! 「大体、樹洞流は細かい作法より茶道を楽しみましょうってコンセプトなんじゃないの!?」 「基本も押さえてない奴が偉そうなことを言わない」 く、それを言われては言い返せない。 「もう……自分は努力家だからって、私に押し付けられても……」 思わず呟くと、 「なんだって?」 文句だと思われたのか、軽く怒鳴られる。 「いえ、なんでも……」 言ったそばから、茶筅を置いた手を叩かれた。 「もっと右」 「そんなとこまで!?」 「見た目が不愉快だ」 くそう、悔しい……っ。 私が立てた薄茶を、東吾が受け取る、見た目だけで、 「──45点」 「わ、さっきより5点上がった!」 「──100点満点だからな」 「判ってるよ!!!」     
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