5.

26/37
前へ
/226ページ
次へ
冷たい声が私の耳元でした、もちろん健次郎くんに向けた言葉だ、健次郎くんの返事は舌打ちだった。 「手錠の鍵を出せ、持ってないとは言わせないぞ」 健次郎くんは少し悩んでから、ジーンズの後ろのポケットからそれを取り出した、私は整わない呼吸の中でそれを見た。 健次郎くんの手の平に、こんもりと乗る小さな鍵の山……5個分の手錠の鍵だろうか。 健次郎くんがふと笑うのを見た。 「賭けをしようぜ」 鍵は二つずつ、小さなダブルリングに留められ、それを大きな一つのダブルリングにまとめたものだった、その大きなダブルリングから外しながら言う。 「賭け?」 東吾が感情を抑えた声で聞く。 「鍵は5個、一度も間違えずに今亜弥にかかっているものを当てられたら、俺は亜弥を諦める、金輪際指一本触れない、声を掛けるのもやめようか? でももし一度でも間違えたら、俺にもチャンスをくれ」 「チャンスぅ?」 東吾の怒りが増したのが判る。 「俺も亜弥が好きなんだ、それは本気。兄ちゃんと結婚すると決まって、はいそうですかって諦められないくらい、亜弥が好きなんだ」 「お前の気持ちなんかどうでもいい、亜弥の気持ちを考えろ」 「まあいいじゃん、兄ちゃんが賭けに勝てばいいだけだろ。兄ちゃん達の愛の証明にやってみせてよ」     
/226ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2328人が本棚に入れています
本棚に追加