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「健次郎を判ってくれてありがとう。もう……亜弥ちゃん、格好よすぎよ、だからうちの子達が悩殺されちゃって……東吾ね、小さい時は泣き虫で大変だったの。蝶が前を横切っただけで、もうこの道歩けないなんて泣くくらいで」
「そうなんですか?」
東吾がそんなに泣き虫だった記憶なんかないや。
私の指がもげるかもと泣いていた覚えしか。
「亜弥ちゃんに会ってからよ、宣言したもの、もう泣かないって」
──え?
「亜弥ちゃんに初めて会ったあの日は、滑り台を横入りされたって泣いていてね。私はまたかーくらいで諦めていたのよ、もう帰ろうって言っても聞かなくて」
あ、それは前に東吾も言っていた話か。
「そしたら亜弥ちゃんが「あの泣いてる子に謝れ」って、相手の男の子に食って掛かってね。私が見ててもかっこいいーと思ったわ、東吾にもそう見えたんでしょうね。だって相手の子が「うるせえ」って拳、上げたのよ、でも亜弥ちゃん全然怯まなかった、「私を殴るのと、あの子に謝るのでは次元が違う、私を殴ってもあの子に謝れ」って啖呵切ったのよ、もう私だってメロメロだったもの、東吾もそうだったのね、それから毎日あの公園に行きたいって聞かなくて」
くすくす笑いながら言う。
って言うか、私もませた子供だったんだな、次元って……。
「亜弥ちゃんはあの頃のままね、きちんと正義を貫き通す、健次郎が酷い事をしたのは事実なのに、健次郎を悪者にしてくれていいのに、ちゃんと健次郎の事も考えてくれて──ありがとう」
優しい「ありがとう」に、私は首を左右に振った、正義とか、そんなつもりは全然ない。
でも万里子さんは、急に顔を曇らせて、言葉を続けた。
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