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「でもさすがに今回は……東吾に何があったか聞いたのよ、始めはどうして言わなくてね……衣服を切られたなんて状況が何を意味するかは判るわ──ごめんなさいね、主人も同席させて話を──」
私は頷くしかない、忘れて、とも言えず。
「今回が初めてじゃない、今までだって亜弥ちゃんを──主人ね、子供を叱らない人だったの。何があっても「まあいいじゃない」って済ませちゃう人で。東吾が子供の頃は情けない人だなって思ったのよね、健次郎が産まれた頃はもう諦めがついていたけど、それでも男親ならガツンと叱ってほしい時もあるじゃない、なのにいつも「あーしょうがないねえ」って済まされてしまって──そんな人が、あんなに怒るのを初めて見たわ、手を上げたところも……自分の欲望に任せて女性を辱めるとは何事か!ってすごい剣幕で……世が世なら勘当ものだが現代ではそんなわけにもいかない、但し、二度と敷居を跨ぐなと言って……」
「──敷居を?」
それは、出て行けと言う事?
万里子さんは淋しく笑った。
「仕方ないわ、それ相応の事をしたのよ。あの子は清々するなんて言ってたけど……」
「駄目です!」
私は声を上げていた、だって……!
「あの! 私が言う権利ないですけど! 追い出すようなことはしないでください! 健次郎くん、本当に一人になってしまいます!」
「亜弥ちゃん?」
「健次郎くん、きっと後悔してます! 私にあんなことした事……あの、あの日は、私達、一時間も一緒にいたんです、本当に乱暴しようとしてたなら、とっくに終わってたと思うんです!」
私の赤裸々な告白を、万里子さんは頬を染めながらも聞いてくれた。
「でもしなかった、最後まで、しなかったんです! 私の思い上がりかもしれませんけど、本当に私が大事で、私の心が、欲しかっただけなんじゃないかと思うんです! でも私が頑なに嫌がったから──ちゃんと我慢してくれたんです!」
そうだ、なんだかんだと言って、健次郎くんはシャツの一枚も脱がなかった。
「だから……お願いです、私の所為で追い出されるなんて……嫌です。きっと東吾の顔を見る度に思い出します……!」
拳を握り締めていた。
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