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勝手だ。じゃあ健次郎くんの気持ちを受け入れられるのかと言われたら、それは無理で。
だからと言って出て行けと言われてしまうのは辛くて。
「ありがと、亜弥ちゃん」
万里子さんは微笑んだ、嬉しそうに。
「東吾も、亜弥ちゃんは自分が守るからって言ってたわ。私もね、自分がお腹痛めた子をなかった事にはできなくて。でもしたことがしたことだし……でも、もう一度主人には言ってみるわね、亜弥ちゃんに処罰感情はありませんって」
私は頷いた、それからはっとする。
「あの、東吾には言わないでください、私が健次郎くんに思ってる事……きっと甘いって怒ると思うので」
最後までしなかったからいいとか思ってるとか、思われたくない……。
万里子さんはにこっと微笑んだ。
「判ったわ。本当にありがとう、美也さんにもお礼言わなくちゃ、いい子に育てたねって」
母にお礼か……きっと、母には意味不明だよね。
***
美乃利と待ち合わせたのは、例の焼き鳥屋だった。
店の引き戸を開けると、既にいた美乃利が手を振ってくれた。
「おお!!!」
店内がどよめいた、何事!?
「これが、例のイケメン家元さんかい! こりゃ確かに美形だ!」
店の店長さんが大きな声で言う、私の後ろにいた東吾が「うん?」と声を上げた。
「おお、噂の! さあさあ座んな!」
これはお客さん、私と東吾の手を引っ張って、美乃利がいる小上がりの席に座らせられた。
「あ、あの……!?」
「今日は先日の戦勝報告会と聞いたぜ、さあ、何呑む!?」
見ず知らずのお客さんのに囃し立てられたけど、何のことやら!?
そして注文もしてないのに、ジョッキのビールが二つ出てきた!
「あ、あの!」
「いやさあ、亜弥が帰ってから、大変だったのよお」
美乃利が話し出す。
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