【episode.0】

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* ホテルのロビーで花を生ける。 家業は花屋、店頭で売るだけでは生計は成り立たないので、近隣のホテルや店舗、オフィスに営業をして回ったのは、脱サラして手伝っている父だ。 自称、優秀な営業マンだった父のお蔭で忙しくしている。 桜木町駅近くの小さなホテルだ。 元は造花を飾っていたのを、どうせなら生花でと言う営業を受け入れてもらえた。 以前は母がやっていた生ける作業も、大学を卒業して一年経った春からやらせてもらえるようになった。 専業主婦だった母が、趣味が高じて「花屋をやりたい!」と言い出したのは、数年前だった、私の大学受験の頃と重なる。子育ても終わったとでも言いたげに宣言した。 父も私も反対したけれど、結局、二人してその手伝いをしている、母は人使いがうまいのだろう。 「亜弥はセンスあるわあ」 そんな言葉にほだされて、フラワーアレンジメントや生け花を習った。カラーコーディネイトも勉強したし、ラッピングの講習にも行った。 本当に、どっぷりだ。いずれは跡は継ぎたいと思っている。 ホテルの大きな花瓶に生けた花を、少し離れて全体の様子を見て首を傾げていると。 「おう、いっつ、あめーじーんぐ」     
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