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午後にコンビニで買ったドリップコーヒーはとっくに冷めて、香りも無くなっていた。
それを一口飲むと。
「亜弥ー、これ、アカツキさんとこ届けてー!」
母の声がした。
「はあい」
暁さんとは、近所のスナックで、週に二度花を納入している、お店の花瓶に生けるまでが仕事。概ね15時頃に伺う。
「じゃ、行ってくるね」
カサブランカを中心に、カーネーションやグリーンがまとめられた箱を抱え上げた。
「お願いね」
近所だ、歩いて行くことにする。
一大歓楽街である横浜・野毛にある花屋は、それなりに繁盛している。
一応十時から二十時までの営業なのだが、実際には深夜と言える時間までやっている。周囲には風俗のお店も多い、そこの嬢にお客が「〇〇ちゃんの誕生日なんだよー」なんて買っていくのはしょっちゅうだ。
その〇〇ちゃんの誕生日を、一年に数回聞くのも珍しくないけど、まあいいか。
他にも店舗の飾りは勿論、お寺や墓地、あるいは結婚式の納品もあったりして、本当に、嬉しい悲鳴などと繕いたくなくなる程の忙しさだ。
バイトは五人も雇っているが、それでも目が回る様に忙しい時もある、今日はそんな日だった。
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