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「いらっしゃいませ。ゆっくりしていってね」 「……コーヒーをお願いします」  女性はマスターが運んできたコーヒーを一口飲んでしばらくすると席を立ち洋介の隣に座った。もちろん2人は初対面。29歳にして女性遍歴が無い洋介にとってはまさに寝耳に水、というか寝耳に強炭酸水。  女性は洋介の顔を見つめて笑いながら挨拶した。 「こんにちは」 「こ、こんにちは」 「お一人ですか? 」 「はい、いつも一人です」  言った後に洋介は自分が頓珍漢な答えをしたことに気づいき顔を赤くした。  彼女はそんな洋介を笑顔でやさしく見つめる。 「私、この近くに職場があって通勤の時によく店の前を通るんです。でも変な名前だしあんまり人が入ってないから入りづらくて」 「あ、わかります。僕も最初なんて読むか分からなくて、まさか『花唄鳥』でハミングバードと読むだなんて思ってもなかったですよ」 「えっ、私はてっきりハナウタドリって読むのかと。」  マスターが「おいっ」と小さく突っ込みを入れると3人の間に笑いが生まれ初対面の間に生まれる独特な緊張感がふわりと溶けた。    彼女の名前は吉沢。  年齢は28歳のOL。  洋介と吉沢は年齢が近いということもあり、子どもの頃に見ていたテレビの話から好きな歌手や芸能人、流行したものや仕事の話などの話題に花が咲き、会話が途切れることはなかった。  そして話題は友人知人の結婚の話になっていった。 「この年齢になると周りの友達はどんどんと結婚していきますよね。私なんか今月で3回も結婚式に出席しちゃいまいた。おかげで今月はすっからかんです」 「たしかに僕の友達もだいたい結婚してるなぁ。会社の先輩とかも20代半ばから結婚ラッシュだから気をつけろよって言ってたの覚えがあります 」
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